浦和地方裁判所 昭和58年(ワ)568号 判決
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【判旨】
この事実<編注・被告は加害者を時速三〇キロメートルで運転し、停車中の被害車の後方約四メートルの距離でこれに気付いて急制動をしたが停止することができずに追突したこと、加害車と被害者の破損状況、追突の瞬間に原告が意識を失つたことを認めることができ、これらの事実から、原告が追突されたことにより受けた衝撃は非常に大きかつたと推認することができる>及び<証拠>を総合すれば、次の事実を認めることができる。
(1) 原告は、本件事故により、頸椎捻挫、背部捻挫の傷害を受け、前記の通院治療の結果症状は一応固定したが、後遺症として、キリで刺されるような鋭い頭痛、頭重感、頸部痛とこれにより首が九〇度曲らない頸部可動制限、肩こり、腰背部痛、字が乱れる程の手指のしびれ、歩行能力を低下させる程の下肢のしびれと膝痛、目まい、立ちくらみ、食欲不振、吐気、耳鳴り、複視、残尿感、インポテンツ、全身の倦怠感等の症状が残り、思考力、集中力と意欲が低下し、もの忘れがひどくなつている。
(2) 原告は、本件事故当時から現在まで太陽工藤工事株式会社に勤務し、本件事故当時同会社の業務課に所属して自動車を運転して外勤と内勤をしていたが、本件事故後は前記傷害と後遺症のため外勤は殆んどできず仕事の能率が落ちたため、昭和五八年二月に営業課に配填され、主として書類の清書、写の作成等の単純な作業に従事し、自己の判断を必要とする仕事をすることはなくなつた。
原告は、前記傷害と後遺症のため痛みと疲労感に苦しみながら、減収、昇給や昇格の遅れ、解雇等を防ぐため出社時間を約一時間早め、退社時間を一、二時間遅らせ、通院治療のために昭和五五年一〇月二五日から昭和五八年五月三一日までの間有給休暇五〇日を使用するなどして努力した。その結果、原告は欠勤することはなかつたが、前記のように単純労働をするのみとなり、昇給や昇格に若干遅れを生じ、年間五〜六万円のボーナス減少も生じている。
2(一) 治療費 金三〇四万五九九〇円
原告が、治療費として右金額を高梨病院に支払つたことは、当事者間に争いがなく、これが本件事故と相当因果関係にあることは、1で確定したところから明らかである。
(二) 診断書科 金二〇〇〇円
原告が診断書料として右金額を同病院に支払つたことは、当事者間に争いがなく、(一)と同じく本件事故による損害であることは明らかである。
3 労働力の価格の低下による損害=休業損害等 金五八五万三四三七円
(一) 人の身体に傷害を与えた場合に賠償すべき損害は、労働能力の低下による商品としての労働力の価格の低下分であり、従来労働能力の減少を損害とするのはこれを意味し、原告主張の治療のための有給休暇の使用を含めて休業損害や逸失利益の算定はその算定の一方法であるから、金銭収入の現実の減少が存在する必要はない。金銭収入のない専業主婦に休業損害や逸失利益の賠償が認められ、労働の意思も能力もない者にこれが認められないのは、そのためである。
(二) 原告の場合、前記の如く、現実の金銭収入の減少が少ないのは、原告が労働能力の減少にもかかわらず減収や解雇等を防ぐため苦痛に耐えて努力したためであり、原告の労働力の価格が低下していることは、原告が労働力を他に売却する場合、すなわち転職する場合のことを考えれば明らかである。
そして、1項で確定した事実によれば、原告の労働力の価格は本件事故の発生日から約一〇年間少くとも一五パーセント低下したと認めるべきであり、その結果原告の受けた損害額を計算すると金五八五万三四三七円となる(計算式は別紙4のとおり。)。
(菅野孝久)